京都市右京区花園の妙心寺にほど近い法金剛院は、京都でも有数のハスの名所で、「ハスの寺」とも呼ばれています。
平安時代の鳥羽天皇の中宮 待賢門院が極楽浄土を模して造園させた池泉回遊式浄土庭園があり、苑池や鉢には世界中のハスが集め植えられ、毎年7月のハスの見ごろの時期には「観蓮会(かんれんかい)」を開催し、朝7時から16時まで拝観できます。(2021年は7月10日から8月1日まで。7時30分から12時半までの受付。閉門13時)
早朝に開花し、お昼ごろにはしぼんでしまうハスを楽しむためには、早朝のうちに見たいものです。でも、京都のほとんどの寺院の開門は9時ころ。ハスの開花時期は京都でも最も暑い時期なので、涼しい早朝の時間帯からハスを楽しむことが出来る観蓮会はありがたいですね。7月の1か月ほど、ずっと観蓮会として早朝拝観できる所は、京都でも法金剛院ぐらいです。私はうん十年前、会社に勤め始めた頃に、職場の上司から法金剛院の観蓮会のことを聞き、一度行ってみたい…と思っていました。
今回やっと、この法金剛院の観蓮会を訪れることが出来たので、ここにご紹介します。
●法金剛院の場所
●法金剛院の行き方
・JR嵯峨野線「花園」駅から徒歩5分
・京都市バス、京都バス「花園扇野町」バス停下車すぐ
●法金剛院とは
法金剛院は、京都でも珍しい律宗(りっしゅう)に属しています。律宗は、鑑真が中国から伝えたことに始まる南都六宗のひとつで、奈良の唐招提寺(とうしょうだいじ)が総本山です。
この寺は、平安時代の初め、天長の頃(830年)右大臣清原夏野(きよはらなつの)が山荘を建て、死後 寺として双丘寺(ならびがおかでら)と称しました。その頃、珍花奇花を植え、嵯峨、淳和、仁明の諸天皇の行幸を仰ぎました。殊に仁明天皇は内山に登られ、その景勝を愛で、五位の位を授けられたので、内山を「五位山(ごいさん)」と言います。
その後、文徳天皇が天安2年(858)大きな伽藍を建て、天安寺とされました。
平安時代の末、大治5年(1130)、待賢門院が天安寺を復興し、法金剛院とされました。待賢門院は藤原氏の出身で、鳥羽天皇の中宮であり、崇徳天皇、後白河天皇の母でもあります。
寺は五位山を背に中央に池を掘り、池の西に西御堂(現本尊丈六阿弥陀如来)、南に南御堂(九体阿弥陀堂)、東に待賢門院の寝殿が建てられ、庭には青女(せいじょ)の滝を造り、極楽浄土を模した庭園としました。池庭の造営には静意(じょうい)が、「青女の滝」は林賢と静意が巨岩を並べた滝石組を行いました。
その後、三重の塔、東御堂、水閣が軒を並べ、桜、菊、紅葉の四季折々の美観は見事なもので、西行はじめ多くの歌人が歌を残しています。
「なんとなく芹と聞くこそあはれなれ 摘みけん人の心知られて」西行
「芹摘む人」と言うのは后など高貴な女性にかなわぬ恋をすることを意味します。西行は美貌の待賢門院を深く思慕していたと言われています。
その後、法金剛院は度重なる災害や応仁の乱などの戦乱により、壮観を誇った当時の面影は今は無く、駅前にありますが、小さくひっそりとした寺院となっています。
このように法金剛院の庭園は時代とともに変化していきましたが、数少ない平安時代の庭園の中で、発願者や作者の名前、作庭の過程が明白である非常に貴重なもので、国の特別名勝に選ばれています。
それでは、お散歩にでかけましょう。
本日のスタートはJR花園駅です。
改札を出て丸太町通りを西(左)へ向かいます。
100mほど西へ進みます。
信号があるので、丸太町通りの北側へ渡ると、法金剛院の駐車場前です。
丸太町通りを少し東へ戻ります。
法金剛院の表門です。
観蓮会の時期はこちらではなく、駐車場側の入口から入るようです。
もう一度丸太町通りを西へ向かいます。
駐車場を入って右手に拝観受付があります。
拝観料500円を払って入場します。
7月も下旬でしたが、まだ紫陽花が咲いていました。
早速、ハスの鉢植えがお出迎えです。こちらはまだ咲いていませんでしたが…
参道を進むと苑池につきあたり、左に曲がると…
ハスの鉢植えがズラリと並んでいて壮観です。入って来られる参拝者たちも思わず「ほお~」と感嘆の声を上げ、皆一様にスマホやカメラでハスを撮影していました。
もとは法金剛院でもハスは苑池にしかなかったそうですが、鉢植えのハスを置き始めたところ人気となり、どんんどん増えていったそうです。
まずはご本尊をお参りします。
法金剛院には本堂という名称のお堂はありませんが、礼堂が法金剛院の本堂に相当するそうです。礼堂とは、普通は本堂の前の礼拝用のお堂のことです。
1970年前後の右京区丸太町通りの拡張により、法金剛院境内の南側が削られることになったため、本堂を移設して礼堂とし、本尊を安置する仏殿や庫裏を新設しました。通常は仏殿が本堂のことを指しますが、法金剛院の仏殿は収納庫の役割を果たしています。
靴を脱いで、受付で渡されるスリッパに履き替えて、礼堂に上がります。表示に従い仏殿へ向かいます。
渡り廊下を渡って仏殿へ向かいます。
仏殿内にはご本尊の阿弥陀如来像(国宝)を始め、僧形・文殊菩薩や地蔵菩薩、十一面観世音菩薩など平安時代から鎌倉時代にかけての大変古くて立派な仏像が多数安置され常時公開されています。しかし残念ながら写真撮影は不可でした。
ご本尊の阿弥陀如来像は平安時代の作で、丈六の寄木造、定朝様の流れを汲む藤原仏の特徴を持ち、定朝の直系の弟子、院覚の作と伝えられています。その出来栄えがあまりに立派であったため、院覚は鳥羽上皇から法橋(中世以降、僧侶に準じて医師、絵師、仏師などに与えられた称号)の位を授けられました。古くは平等院・法界寺 と共に定朝の三阿弥陀と言われたそうです。また台座の蓮弁の彫刻は一枚一枚デザインが違う、繊細かつ豪華なものです。
平安時代の仏像がこんなにきちんと残っているというだけでも、とてもありがたい気持ちになりますが、更に、やさしくておおらかなお顔を間近に眺めていると、コロナ禍ですり減った心と体を救っていただけそうな、とても穏やかな気持ちになりました。
さて、ご本尊のお参りも済ませたので、今回の目的、ハスの鑑賞に参りましょう。
礼堂の前にもハスの鉢がずらり。
礼堂を出て苑池に向かうと、世界中から集められ栽培されたというたくさんのハスの花が並んでいます。周囲に人がいないのを確認してマスクを外してみると、ハスの清々しい香りが漂い、心洗われる思いです。
鉢植えなので間近で写真を撮影できるのが嬉しいですね~
ハスの花は大ぶりでどっしりとしていますが、間近で見ると繊細な美しさもあり、また様々な種類があるので、本当に見ごたえがあります。
苑池のハスは盛りを過ぎたようで、花の数はまばらでしたが、ハスの葉が池一面を覆い尽くし、これはこれで神秘的な雰囲気を漂わせていました。
石仏群
特別名勝に指定されている滝石組「青女(せいじょ)の滝」です。日本最古の人口滝と言われています。
青女の滝は長らく土に埋もれていたものが、1968年に法金剛院で発掘されて、今のように整備されたそうです。
数年前までは水が流れておらず、大雨の直後だけ当時のように滝が見られたそうですが、今は常時水が流れています。
開いた花とつぼみのコラボレーションもかわいらしいですね。
鉢植えのハスは、葉の方が背が高いものもあり、傘をさしているようです。
ちょっとわかりにくいですが、つぼみの上にトンボが止まって一休み。
これも間近で見られる鉢植えならではの楽しみです。
法金剛院は関西花の寺二十五ヶ所の十三番目の霊場でもあり、周辺の地名である「花園」の由来ともなっている由緒ある寺院です。春の桜、初夏の紫陽花や花菖蒲も見事だそうですが、やはり「ハスの寺」の別名にもある通り、ハスが一番有名です。
「観蓮会」は2021年は8月1日で終了しますが、ハスの花は鉢植えならまだしばらくは楽しめそうです。8月2日からは通常通りの9時開門に戻りますが、開門すぐなら、ハスは咲いていると思います。今年の夏は少し早起きして法金剛院を訪ね、極楽浄土さながらの光景を楽しんでみてはいかがでしょうか。
近隣には、徒歩10分足らずの場所に妙心寺があります。こちらの退蔵院も四季折々の自然の美しさを堪能でき、本当におすすめです。法金剛院へお越しの際は、是非こちらにも足を伸ばしてみてください。
今回は、JR花園駅から徒歩で法金剛院へ向かい、ご本尊の参拝から庭園の散策を含め、小一時間ほどでした。夏の暑い時期には、水分補給をお忘れなく、また法金剛院内のトイレは使用出来ませんので、お気をつけください。
妙心寺 退蔵院については以下のブログで詳しくご紹介しています↓